映画『国宝』だけではわからない、春江の真実 ― 喜久雄ではなく俊介を選んだ深い理由

映画『国宝』では、主人公・喜久雄の幼馴染である春江が、なぜ彼ではなく俊介と結婚したのか、その真相は深く描かれていません。しかし、原作小説には、彼女の決断に隠された深い愛情と、知られざる俊介の過去が描かれています。

本稿では、映画では語られなかった春江の**「空白の期間」**と、俊介との結婚に秘められた真実を考察します。喜久雄の人生に大きな影響を与えながらも、静かに身を引いた春江。彼女の選択に隠された、愛する人を想う深い覚悟に迫ります。

なぜ春江は喜久雄ではなく俊介を選んだのか？

映画を観た多くの人が抱く疑問、それは「なぜ春江は喜久雄と結婚しなかったのか？」でしょう。喜久雄が「人生で一番好きだった女」と語るほど愛した春江が、最終的に選んだのは、喜久雄のライバルである俊介でした。

この結婚の裏には、春江が喜久雄に抱いていた崇高な覚悟が隠されています。彼女は、幼い頃から喜久雄の才能と、歌舞伎に対する並々ならぬ情熱を誰よりも深く理解していました。喜久雄は「国宝」となるべくして生まれた人間であり、春江は彼の芸の道を邪魔してはならないと強く感じていたのです。

一方、俊介は喜久雄とは違い、努力で道を切り拓くタイプでした。春江は、俊介のそばであれば、彼を支え、共に人生を歩むことができると確信したのかもしれません。彼女は、喜久雄の才能を輝かせる**「一番のお贔屓さん」**として、遠くから見守ることを選びました。春江にとって、この決断は愛する人を一番に想うがゆえの、崇高な選択だったのです。

空白の期間と、俊介がストリップ劇場で舞った理由

俊介が歌舞伎の世界から離れ、ストリップ劇場で踊っていたという事実は、原作にしかない衝撃的な設定です。なぜ彼は歌舞伎を捨て、そこで舞を披露していたのでしょうか？そして、どうやって再び舞台に戻ってきたのでしょうか？

俊介は、喜久雄の天才的な才能を目の当たりにし、深く絶望していました。努力では埋められない、生まれ持った才能の差に打ちのめされたのです。歌舞伎の世界に自分の居場所はないと感じ、舞台から姿を消しました。

しかし、俊介がストリップ劇場で踊っていたのは、単なる自暴自棄な行為ではありませんでした。彼は、歌舞伎の演目を舞うことで、自身の芸を磨き続け、歌舞伎の世界に戻るための糸口を探していたのです。それは、大衆の目に晒されながらも、ひたすらに芸と向き合う、孤独で苦しい修行でした。

そんな俊介を救い、再び歌舞伎の道へと導いたのは、他でもない春江の存在でした。春江は、どん底にいる俊介を支え、彼の才能を信じ続けました。そして、彼女の献身的な愛と励ましが、俊介に再び立ち上がる勇気を与えたのです。俊介が歌舞伎の世界に戻ってきたのは、喜久雄との決着をつけるためだけでなく、春江の愛に応えるためでもありました。彼の舞台復帰は、才能だけでなく、愛と覚悟が人を動かすことを証明する、感動的な物語でもあります。