映画『国宝』では、喜久雄の兄貴分として登場する徳治が冒頭のシーンにしか出てきません。そのため観客にとっては「一瞬出て消えた人物」という印象で終わってしまいますが、原作では喜久雄の人生において重要な存在として描かれています。
徳治は立花組の若衆だった
徳治は、喜久雄の父・半次郎が組長を務める立花組の若衆でした。血のつながりはありませんが、幼い頃から喜久雄の面倒を見ており、まさに「兄貴分」と呼ぶにふさわしい存在でした。
父を亡くした少年時代の喜久雄にとって、徳治の存在は精神的な支えでもあったのです。
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父の敵討ちに挑んだ二人
映画にも描かれているように、喜久雄の父が抗争で殺された際、徳治は喜久雄と共に敵討ちに向かいます。徳治は拳銃を、喜久雄はドス(小刀)を手にし、組長を殺した相手に挑もうとします。
結果的に敵討ちは失敗に終わり、二人は深く傷つきますが、この出来事は喜久雄の心に大きな影を落とし、のちに「舞台で生きる覚悟」を固めるきっかけのひとつとなりました。
映画では描かれなかったその後
映画では、この敵討ちのシーンを最後に徳治は登場しません。しかし原作では、徳治はその後も喜久雄の成長を陰ながら支える存在として描かれます。
血を分けた家族ではないけれど、兄弟以上の信頼を寄せ合っていた二人の絆は、喜久雄の人格形成に深く関わっていました。
なぜ映画では冒頭だけだったのか?
映画版『国宝』は、喜久雄の芸の道・役者としての生涯に重点を置いて描かれています。そのため、幼少期や立花組時代のエピソードは大胆に省略されました。
徳治が冒頭にしか登場しなかったのは、映画が「芸の国宝」としての喜久雄を描くことを優先したためと考えられます。しかし原作を読むことで、喜久雄が役者として大成する前に血と暴力の世界を生きていた過去が浮かび上がり、その中で徳治という存在がどれほど大きかったかを理解できるのです。
徳治が象徴するもの
徳治は、喜久雄にとって「血縁ではないけれど家族のような存在」でした。暴力の世界で共に生きた記憶は、やがて喜久雄が舞台で演じる役柄や心情表現にも活かされていきます。
つまり、映画では一瞬しか映らなかった徳治こそ、喜久雄の役者としての原点を形作った人物のひとりだと言えるでしょう。
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まとめ
- 徳治は立花組の若衆で、喜久雄の兄貴分的存在
- 父の敵討ちに共に挑むが、失敗に終わる
- 映画では冒頭にしか登場しないが、原作ではその後も影響を与え続ける
- 徳治は「血のつながりを超えた家族」であり、喜久雄の人生に欠かせない人物だった
映画だけでは見えにくい「徳治と喜久雄の関係」を知ると、物語にさらに深みを感じられるはずです。
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