2025年9月26日公開の最新作が話題の『沈黙の艦隊』。この物語は、日米共同訓練中に、日本の潜水艦「やまなみ」が、アメリカの潜水艦と衝突したように見せかけた、天才艦長・海江田四郎の周到な計画から始まります。この事故により潜水艦の乗組員全員が死亡したと世界は信じ込み、物語は大きく動き出します。そして海江田が独立国家「やまと」を名乗るという衝撃的な宣言と共に潜水艦は「シーバット」から「やまと」へとその名を変えるのです。
この改名は、単なる名称の変更ではありませんでした。それは海江田四郎の思想と行動が現実世界に影響を与え始めた最も重要なターニングポイントです。この記事では、この改名に隠された深い意味と、海江田の覚悟を象徴する「二つの大和」について、徹底的に考察していきます。
緊迫の改名、それは「使命」の始まり
「我々は独立を宣言する。我々は今ここに独立国やまとの建国を宣言する」
この宣言は、日本政府やアメリカ政府・アメリカ軍たちに大きな衝撃を与えましたが、彼らが抱いたのはだけ恐怖だけではありませんでした。彼らは海江田の天才的な指揮能力を目の当たりにし、宣言後にすぐ動くことが出来ませんでした。
この改名は、海江田の「思想」が潜水艦という「器」を得て、世界に存在を宣言する瞬間でした。それは彼と乗組員たちにとって、祖国への義務を捨て未知の理想へと向かう「使命」の始まりでもあったのです。
兵器「シーバット」と思想「やまと」
潜水艦が「シーバット」と呼ばれていた時、それはアメリカ海軍が所有する、あくまで「兵器」でした。「シーバット(海のコウモリ)」という名前は、レーダーに映らず音を立てずに獲物を追う、その隠密性を象徴しています。それは従来の軍事秩序の中で、与えられた役割を全うする存在でした。
しかし、海江田によって「やまと」と名付けられた瞬間、その存在は兵器という枠を超え、海江田の「核の抑止力による平和」という思想を体現する「思想の器」へと変貌します。海江田は、言葉で語ることのできない自らの哲学を、この潜水艦の存在をもって世界に示そうとしたのです。この改名は、潜水艦が単なる道具ではなく、海江田の哲学そのものになったことを意味しています。
歴史に刻まれた「二つの大和」
「やまと」という名前は、日本人にとって特別な意味を持ちます。それは、かつての大日本帝国海軍の象徴であり、第二次世界大戦で悲劇的な最期を遂げた戦艦「大和」を想起させます。
しかし、この二つの「大和」は、対照的な運命をたどります。
- 戦艦「大和」は国のために戦い、国家の栄光と運命を背負って散りました。
- 潜水艦「やまと」は特定の国家のためではなく、人類全体の平和という壮大な理想のために「沈黙」を選び、世界の秩序に反旗を翻しました。
海江田は、あえて「やまと」と名付けることで国家のために死ぬ運命を背負った戦艦「大和」の悲劇を乗り越え、人類全体の平和という、より大きな使命を背負ったのです。それは、かつての日本の歴史に対する海江田なりの一つの回答でした。
まとめ
潜水艦が「シーバット」から「やまと」へと改名したことは、この物語が単なる軍事サスペンスではないことを示しています。それは一人の天才が、既存の秩序に「ノー」を突きつけ、自身の哲学に基づいた新しい世界を築こうとする壮大な試みの始まりでした。
米軍第7艦隊所属「シーバット」から独立国家「やまと」になったこの潜水艦。「やまと」という名称は海江田の孤高の覚悟と彼が背負った運命を象徴する、最も重要なキーワードだったのです。
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