『汝、星のごとく』というタイトルは、美しく印象的でありながら、初めて目にすると少し意味をつかみにくい言葉です。
「汝(なんじ)」は「あなた」を意味する古い言葉。そして「星のごとく」は「星のように」という意味になります。
言葉だけをつなげれば、「あなたは星のように」という意味に読むことができます。
では、その「あなた」とは櫂なのでしょうか。それとも暁海なのでしょうか。
原作者の凪良ゆうさんは映画化に寄せたコメントで、人はそれぞれ心の中に「一番星」を持っていると語っています。
この言葉を手がかりにすると、『汝、星のごとく』というタイトルが櫂と暁海だけではなく、作品に登場するさまざまな人の生き方につながっていることが見えてきます。
この記事では、「汝」と「星」が表すもの、物語とタイトルのつながりを考察します。
『汝、星のごとく』タイトルの意味は?
まず「汝」は「なんじ」と読み、「あなた」「おまえ」という意味を持つ言葉です。
現在の日常会話ではほとんど使われませんが、古い文章や文学作品では相手を指す言葉として登場します。
そして「ごとく」は「〜のように」という意味です。
『汝、星のごとく』をそのまま読めば、「あなたは星のように」という呼びかけになります。
ただ、この作品の場合は「誰が誰を星のように思っているのか」を一人に決めてしまうと、タイトルの持つ広がりが失われてしまいます。
櫂にとっての暁海、暁海にとっての櫂。
さらに二人の人生には、北原先生や林瞳子、久住尚人など、多くの人が関わっていきます。
誰かの存在によって人生の方向が変わり、苦しいときにはその人の言葉や記憶が支えになる。
『汝、星のごとく』の「星」は、そんな人の心に残り続ける存在を表しているように読めます。
凪良ゆうが語る「一番星」とは?
タイトルの「星」を考えるうえで大きな手がかりになるのが、原作者・凪良ゆうさんの言葉です。
映画化に寄せたコメントで凪良さんは、人は心にさまざまな「一番星」を持っていると語っています。
つらいとき、悲しいとき、楽しいときに思い出す存在。
それは恋人かもしれません。
家族や親友、ペット、あるいは大切な記憶がその人にとっての星になることもあります。
この「一番星」という考え方は、『汝、星のごとく』というタイトルを理解するうえでとても分かりやすいものです。
夜空にある星は遠く離れていても見えます。
いつも手が届く場所にあるわけではない。それでも見上げればそこにいて、自分がどこにいるのか分からなくなったときに目印になることがあります。
櫂と暁海の関係にも、どこか似たところがあります。
「星」は櫂と暁海を表している?
櫂と暁海は17歳で出会い、互いに惹かれていきます。
二人とも家庭に問題を抱え、親の生き方に振り回されてきました。
そんな二人にとって、自分と似た孤独を持つ相手との出会いは特別なものだったのでしょう。
高校卒業後、櫂は漫画原作者を目指して東京へ向かい、暁海は母を支えるため島に残ります。
同じ場所で同じ未来を見ることはできなくなっても、二人の人生から互いの存在が簡単に消えることはありません。
離れていても心の中にいる。
人生の選択に迷ったとき、相手の存在が自分の生き方に影響する。
そう考えると、櫂にとって暁海が星であり、暁海にとって櫂もまた星だったと読むことができます。
「汝」が櫂だけ、あるいは暁海だけを指すのではなく、二人が互いに相手へ向けている言葉だと考えると、このタイトルが二人の関係によく重なります。
星は「ずっと一緒にいる人」とは限らない
『汝、星のごとく』の「星」を恋愛だけで考えると、この作品のタイトルは少し狭くなってしまいます。
凪良さんが挙げている一番星には、恋人だけでなく家族や親友、ペット、記憶まで含まれています。
大切なのは、その人といつも一緒にいることではなく、その存在が自分の心の中で光り続けていることなのでしょう。
これは櫂と暁海の15年間にもよく合います。
二人はずっと同じ場所で暮らしているわけではありません。
それぞれ別の環境で生活し、違う人たちと出会い、人生を選んでいきます。
それでも17歳で出会った相手は、その後の人生に残り続けます。
そばにいることだけが、その人を大切にする方法ではない。
遠く離れた星を見るように、会えない時間があっても、その人の存在を心に持ち続けることがある。
「星」という言葉には、櫂と暁海のそんな距離感も重なっているように感じます。
「汝」は櫂や暁海だけを指す言葉ではない?
タイトルのもう一つのポイントが「汝」です。
櫂と暁海の物語として読めば、互いに相手を指す言葉として受け取れます。
ただ、凪良さんの「一番星」についての言葉まで含めて考えると、「汝」が指す相手はもっと広いのかもしれません。
たとえば櫂にとって、漫画を一緒に作る久住尚人は大切な親友です。
暁海にとって林瞳子は複雑な感情を抱く相手ですが、刺繍を通して新しい世界を見せてくれる存在でもあります。
北原先生も、家庭に問題を抱える櫂と暁海を高校時代から見守り、その後も二人の人生に関わっていきます。
人生を振り返ったとき、自分を支えてくれた人や、生き方を変えるきっかけになった人は一人とは限りません。
だからこそ「汝」を特定の一人に限定せず、それぞれの人が心に持っている大切な誰かと読むこともできるのではないでしょうか。
なぜ「太陽」ではなく「星」なのか
タイトルが「星」であることにも、この作品らしさがあります。
太陽は明るく大きく、誰の目にも見える存在です。
一方、星は暗い夜に光ります。
人生が順調なときより、苦しいときや迷っているときに思い出す誰か。その存在を表すなら、夜の中で光る星はとてもよく似合います。
櫂も暁海も、決して順風満帆な人生を歩いているわけではありません。
親との関係、仕事、恋愛。思い通りにならないことを抱えながら、それでも自分の人生を選ぼうとします。
そんなとき、心の中にある誰かの存在が消えずに残っている。
強烈に人生を照らしてくれる太陽ではなく、暗い場所から見上げたときに見つけられる星。
凪良さんが語った「一番星」という言葉を知ると、この作品に「星」という言葉が使われている理由も腑に落ちます。
『星を編む』にも受け継がれる「星」
『汝、星のごとく』には、『星を編む』という続編があります。
タイトルにも再び「星」という言葉が使われています。
『星を編む』で描かれるのは、『汝、星のごとく』では語りきれなかった人たちの物語です。
北原先生の過去、櫂の才能を支えた編集者たち、そしてその先を生きていく暁海。
講談社も『星を編む』を紹介する際に、「人は誰しも自分だけの一番星を持っている」と表現しています。
『汝、星のごとく』で描かれた一つひとつの人生や人とのつながりが、『星を編む』ではさらに別の人物へとつながっていきます。
一人の人生には、いくつもの出会いがあります。
その出会いを星にたとえ、星と星をつないでいくように人の人生を描く。
二作品のタイトルを並べると、凪良ゆうさんが「星」に込めたイメージがより鮮明になります。
『汝、星のごとく』は「自分の人生を選ぶ」物語でもある
『汝、星のごとく』では、恋愛だけでなく「自分の人生をどう生きるのか」が繰り返し描かれます。
暁海は母を支えるため島に残り、櫂は漫画原作者になる夢を追って東京へ向かいます。
どちらの人生にも、自由に選べることと、簡単には捨てられないものがあります。
凪良さんは本作について、人と関わりながらも一つひとつを自分で選んでいく物語になったと語っています。
誰かを大切に思うことと、その人のためだけに生きることは同じではありません。
自分の心に大切な星を持ちながら、自分自身の人生も生きていく。
櫂と暁海の15年間を追っていくと、『汝、星のごとく』というタイトルには、そんな生き方まで重なって見えてきます。
まとめ
『汝、星のごとく』の「汝」は「あなた」、「星のごとく」は「星のように」という意味です。
原作者の凪良ゆうさんは、人は誰でも心の中に「一番星」を持っていると語っています。
櫂にとっての暁海、暁海にとっての櫂。そして家族や友人など、それぞれの人生で心に残り続ける大切な誰か。
いつも隣にいなくても、遠く離れていても、その存在が消えるわけではありません。
苦しいときに見上げれば、そこにいる。
『汝、星のごとく』という美しいタイトルには、そんな「心の中の一番星」への思いが込められているのではないでしょうか。
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