『汝、星のごとく』に登場する林瞳子(はやし・とうこ)。
石田ゆり子さんが演じる瞳子は、美しい刺繍を生み出すオートクチュールの刺繍作家です。
ところが暁海にとっては、素直に憧れることのできる相手ではありません。
なぜなら瞳子は、暁海の父親の不倫相手だからです。
父を奪い、母を傷つけた女性。それなのに暁海は瞳子の刺繍と、自分の力で生きている姿に惹かれていきます。
嫌いなはずなのに憧れてしまう――。
林瞳子は、そんな簡単には割り切れない感情を暁海に抱かせる人物です。
この記事では、林瞳子は何者なのか、暁海との関係や刺繍に与えた影響を解説します。
『汝、星のごとく』林瞳子は何者?
林瞳子は、オートクチュールの刺繍作家です。
そして、暁海の父親と不倫関係にある女性でもあります。
暁海の父は瞳子との関係によって家を出てしまい、残された暁海と母・志穂の生活は大きく変わりました。
夫に去られた志穂は心のバランスを崩し、暁海はそんな母を支えながら暮らすことになります。
暁海から見れば、自分の家庭が壊れた原因となった相手が瞳子です。
ところが実際に瞳子と接すると、暁海の中には憎しみとは別の感情が生まれていきます。
そのきっかけとなるのが、瞳子が仕事にしている刺繍でした。
林瞳子と暁海はどんな関係?
瞳子と暁海の関係は、「父親の不倫相手とその娘」という言葉だけでは説明しきれません。
暁海にとって瞳子は、本来なら会いたくもない相手でしょう。
父親は瞳子を選んで家を出てしまい、その結果、母・志穂は苦しんでいます。
暁海自身も母を置いて島を出ることが難しくなり、自分の将来にまで父親の不倫が影を落としています。
当然、瞳子に対して複雑な思いを抱きます。
しかし瞳子は、暁海が想像していたような女性ではありませんでした。
刺繍作家として自分の仕事を持ち、自分の力で生きている。
それは、家族の問題に縛られて身動きが取れなくなっている暁海とは対照的な生き方でした。
暁海は瞳子を許したから近づくのではありません。
父親の不倫相手としては受け入れられない。それでも、一人の女性として見ると惹かれるものがある。
この矛盾した感情が、暁海と瞳子の関係を複雑で印象的なものにしています。
暁海はなぜ瞳子の刺繍に惹かれた?
暁海の人生に大きな影響を与えるものの一つが刺繍です。
映画公式でも、暁海は「瞳子を通じて刺繍に惹かれていく」と紹介されています。
瞳子が手掛けているのは、オートクチュールのための繊細な刺繍です。
暁海は瞳子からその技術を教わり、刺繍の世界へ引き込まれていきます。
ここで興味深いのは、暁海に新しい世界を見せてくれた人物が、よりによって父親の不倫相手だったことです。
もし瞳子がただ憎むだけの相手であれば、暁海もここまで揺さぶられることはなかったでしょう。
けれど瞳子には、自分にはない技術があり、仕事があり、自分の人生を生きている強さがあります。
暁海にとって刺繍は単なる趣味ではなく、「自分にもできることがある」と気づかせてくれるものになっていきます。
林瞳子が教える「オートクチュール刺繍」とは?
映画でも重要なモチーフとなるのが、瞳子のオートクチュール刺繍です。
オートクチュールとは、顧客のために仕立てられる高級注文服のこと。
そのドレスや衣装を装飾するため、ビーズやスパンコールなどを使って細かな刺繍を施していきます。
映画ではリュネビル刺繍という技法が取り入れられており、瞳子役の石田ゆり子さんも撮影のために一から学んだことを明かしています。
華やかに見える刺繍ですが、完成させるには細かな作業を長時間積み重ねなければなりません。
誰かに与えてもらうものではなく、自分の手を動かして技術を身につけ、それを仕事にする。
瞳子の刺繍に暁海が惹かれるのは、美しさだけでなく、そこに自分が求めていた生き方を感じたからでもあるのでしょう。
暁海が瞳子に憧れるのはなぜ?
暁海は瀬戸内の島で、母・志穂と二人で暮らしています。
本当は島の外へ出たいという思いがあっても、心を病んだ母を残していくことができません。
一方の瞳子は、刺繍という自分の技術を持ち、それを仕事にしています。
暁海が瞳子に見るのは、自分がまだ手に入れられていない「自分の力で生きる女性の姿」です。
もちろん、だからといって父親との不倫まで肯定するわけではありません。
嫌いな部分がある人のすべてを嫌いになれるとは限らない。
間違ったことをした人から、何かを学ぶこともある。
瞳子と暁海の関係には、『汝、星のごとく』に登場する人物たちが「いい人」「悪い人」だけでは分けられないことがよく表れています。
林瞳子は悪い人?父親の不倫相手だけでは語れない
暁海の家庭だけを見れば、瞳子は決して無関係ではありません。
暁海の父親と不倫関係になり、結果として家族を深く傷つけています。
その事実がなくなることはありません。
それでも『汝、星のごとく』は、瞳子を単純な「家庭を壊した悪女」としては描いていません。
原作者の凪良ゆうさんも、瞳子について、筋の通ったことを言う一方で他人の家庭を壊している人物だと語っています。
正しいことを言う人が、すべて正しい行動をするとは限らない。
反対に、間違いを犯した人から得るものが何もないとも限りません。
瞳子の存在によって暁海が感じるのは、まさにそんな割り切れなさです。
父を奪った女性として憎い。
それでも刺繍作家としての技術や、自立した生き方には憧れる。
どちらか一方が暁海の本心なのではなく、両方とも本心なのでしょう。
林瞳子は暁海の人生に何を与えた?
瞳子が暁海に与えたものは、刺繍の技術だけではありません。
暁海は家庭の事情から、自分よりも母親を優先する生活を続けています。
櫂が夢を追って東京へ向かう一方で、暁海は島に残る道を選びます。
そんな暁海にとって、自分の技術で仕事をしている瞳子との出会いは、それまで知らなかった生き方に触れる機会でもありました。
刺繍なら、自分の手で技術を磨いていける。
そして身につけた技術は、誰かに奪われるものではありません。
家族に振り回され、自分の人生を思うように選べなかった暁海が、自分自身の未来へ目を向けるきっかけを作ったのが瞳子です。
父親の不倫相手との出会いが、結果として暁海自身の人生を切り開く力につながっていく。
そこに、林瞳子という人物のおもしろさがあります。
林瞳子を演じるのは石田ゆり子
映画『汝、星のごとく』で林瞳子を演じるのは、石田ゆり子さんです。
石田さんは瞳子について、暁海に「憎悪と憧れ」という相反する感情を抱かせる存在だと語っています。
その人物像を作るため、長かった髪をかなり短く切って撮影に臨みました。
また、瞳子が刺繍作家という設定であることから、リュネビル刺繍も一から習ったそうです。
藤井道人監督は石田さんと話した際、自然の中に身を任せて生きているような印象を受け、森の中にひっそりと暮らす瞳子のイメージが浮かんだと明かしています。
父親の不倫相手という立場だけなら、暁海から嫌われる人物として描くこともできます。
しかし瞳子には、暁海が思わず惹かれてしまう魅力が必要です。
石田さんがどのように「憎いのに憧れてしまう女性」を演じるのかも、映画で注目したいところです。
まとめ
林瞳子は、オートクチュールの刺繍作家であり、暁海の父親の不倫相手です。
暁海にとっては家庭を壊した憎い相手。それなのに、刺繍の技術と自分の力で生きる姿には強く惹かれていきます。
そして瞳子から教わった刺繍は、家族の問題に縛られていた暁海が、自分自身の人生を歩き始めるための大切なものになっていきます。
「嫌いだから、その人のすべてが嫌い」とはならないところが、暁海と瞳子の関係のおもしろさです。
憎いのに憧れる。
そんな矛盾した感情を暁海に抱かせる林瞳子は、『汝、星のごとく』の中でもひときわ印象に残る女性です。
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