NHK連続テレビ小説『ブラッサム』で、東京にやって来た珠が足しげく通っている本屋「ぶくぶく堂」
本が大好きな珠にとって、書店は新しい文学に出会える楽しみな場所です。
10月26日放送の第21回では、人気作家の秋山格之介や、珠が愛読する『イワンの馬鹿』を翻訳した小山牛丸との出会いが描かれました。
ところで、この「ぶくぶく堂」は大正時代の本郷に実在した書店なのでしょうか。
ぶくぶく堂という名前の書店が実在した記録や、直接のモデルとなった店は、現在のところ確認できません。
しかし、当時の本郷には実際に多くの書店があり、学生や文学者が本を求めて集まっていました。
さらに、珠のモデルである宇野千代も、東京で芥川龍之介をはじめとする文学者たちと交流していたのです。
今回は、ぶくぶく堂の実在モデルや店主・本田の役割、大正時代の本郷の書店事情、宇野千代が出会った文豪たちについて紹介します。
『ブラッサム』ぶくぶく堂は実在する?モデルとなった本屋はある?
『ブラッサム』に登場する「ぶくぶく堂」は、東京・本郷にある書店です。
珠と保が暮らす下宿から近く、珠はお気に入りの本を探すために何度も訪れています。
店には文学作品が並び、著名な作家が客として訪れることもあります。
ただし、ぶくぶく堂という名前の書店や、特定の実在書店をモデルにしたという公式情報は確認できませんでした。
宇野千代の年譜にも、ぶくぶく堂に相当する特定の店に通い詰めたりしたという記録は見当たりません。
そのため、ぶくぶく堂は、大正時代の本郷にあった書店文化を取り入れたドラマ独自の店と考えられます。
ただし、書店そのものが架空であっても、珠が文学者たちと出会うという展開には、宇野千代の実体験と重なる部分があります。
ぶくぶく堂の店主・本田は何者?
ぶくぶく堂を営んでいるのは、川島潤哉さん演じる本田です。
本田は文学に詳しく、本を愛する店主として登場します。
珠にとっては、本を売ってくれるだけでなく、作家や文学作品について教えてくれる存在でもあります。
人気作家の秋山格之介も認める品ぞろえ
第21回では、人気作家の秋山格之介がぶくぶく堂を訪れます。
秋山は店内の本を見て、相変わらず渋い品ぞろえだと感心していました。
それに対して本田も、期待に応えられてよかったと喜びます。
本田は、人気作家がどのような本を好むのか理解し、それに応えられる品ぞろえをしているようです。
秋山が帰った直後、店に入ってきた珠にそのことを伝える本田。
珠は憧れの作家とすれ違っていたと知り、大興奮します。
こうした場面からも、ぶくぶく堂が文学好きの人々にとって特別な場所であることが伝わってきます。
本田にも実在モデルはいる?
店主・本田についても、直接のモデルとなった実在人物は確認できませんでした。
ただし、当時の書店主は、単に本を販売するだけではなく、作家や読者との交流を通して文学文化を支える存在でもありました。
本田も、珠と文学の世界を結びつける案内役として描かれているのでしょう。
大正時代の本郷は本屋と文学者が集まる街だった
ぶくぶく堂の舞台となる東京・本郷は、現在の東京都文京区に当たる地域です。
当時の本郷には東京帝国大学があり、地方から多くの学生が集まっていました。
学生たちは教科書や専門書、外国語の本、文学作品などを必要としていたため、大学周辺には書店や古書店が発展していきました。
さらに、本郷周辺には出版社や下宿、飲食店もあり、文学者たちが集まる環境が整っていたのです。
珠が暮らす下宿「三好」、本屋の「ぶくぶく堂」、西洋料理店「悠樂軒」が近い場所にある設定も、こうした本郷の街の特徴をよく表しています。
明治時代から続く本郷の書店もある
実際に、本郷には明治時代から営業を続けている書店があります。
その一つが、1875年(明治8年)創業の「琳琅閣書店(りんろうかくしょてん)」です。
現在も東京大学に隣接する本郷で営業しており、日本や中国の古典籍、学術書、美術書などを扱っています。
1875年創業ですから、宇野千代が東京で暮らした大正時代にも存在していたことになります。
もちろん、琳琅閣書店がぶくぶく堂のモデルだというわけではありません。
しかし、当時の本郷にどのような書店があったのかを知るうえで、興味深い実例です。
大学の近くに専門的な本を扱う店があり、研究者や文学者が訪れる。
ぶくぶく堂のような書店が本郷にあっても、不思議ではない時代だったのです。
秋山格之介のモデルは芥川龍之介?
ぶくぶく堂で珠がすれ違った人気作家・秋山格之介。
高良健吾さんが演じる秋山は、若くして文壇の人気者となった小説家です。
そのモデルと考えられるのが、大正時代を代表する作家・芥川龍之介です。
秋山の代表作として登場する『羅城門』と『蜘蛛の巣』は、芥川の『羅生門』『蜘蛛の糸』を思わせる題名です。
人物の雰囲気や作品名からも、芥川をモチーフにしていることが分かります。
芥川龍之介はどんな作家だった?
芥川龍之介は1892年(明治25年)に生まれ、東京帝国大学で英文学を学びました。
1915年に『羅生門』を発表し、翌1916年には『鼻』が夏目漱石から高く評価されます。
その後も『蜘蛛の糸』『地獄変』『杜子春』など、数多くの作品を残しました。
『ブラッサム』の時代には、若い文学好きの人々から注目される人気作家だったのです。
珠が秋山とすれ違っただけで大喜びする姿も、当時の芥川の人気を考えると納得できます。
宇野千代は本当に芥川龍之介と出会っていた?
宇野千代と芥川龍之介に交流があったことは史実です。
宇野千代は1917年(大正6年)、藤村忠とともに東京へ出て、本郷周辺で暮らしていました。
そのころ千代は、婦人記者や家庭教師、女店員など、さまざまな仕事を経験しています。
その一つが、本郷三丁目にあった西洋料理店「燕楽軒」でのウェイトレスの仕事でした。
燕楽軒には、『中央公論』の編集者・滝田樗陰をはじめ、文学者たちが食事に訪れていました。
芥川龍之介も、その中の一人です。
千代は後年の自伝で、芥川とは燕楽軒で知り合ったのだろうと振り返っています。
また、文学少女だった千代は、芥川の家を訪ねたこともあったそうです。
ドラマでは、珠がぶくぶく堂で秋山とすれ違う形で出会いますが、実際の宇野千代はレストランでの仕事を通じて芥川と知り合ったと考えられます。
芥川龍之介の小説『葱』には宇野千代が登場する?
宇野千代と芥川龍之介の交流で興味深いのが、短編小説『葱(ねぎ)』です。
この作品は1919年(大正8年)に発表されました。
主人公のお君は、喫茶店で働く若い女性です。
文学や芸術に憧れ、恋愛にも夢中になるお君の姿には、若いころの宇野千代が重なるといわれています。
そのきっかけとなったのが、千代と今東光の散歩中の出来事でした。
二人で本郷の街を歩いていたとき、千代は八百屋に並んでいた葱が安いことに気づき、思わず買ってしまったそうです。
今東光は、その様子に興ざめしたといいます。
この話が芥川に伝わり、小説『葱』の着想になったと千代自身が振り返っています。
憧れの作家の小説に、自分の何気ない行動が取り入れられる。
文学好きだった千代にとって、忘れられない経験だったのではないでしょうか。
小山牛丸は実在する?『イワンの馬鹿』の翻訳家
ぶくぶく堂で珠が出会うもう一人の人物が、イッセー尾形さん演じる小山牛丸です。
小山は、ロシアの作家レフ・トルストイの『イワンの馬鹿』を翻訳した人物として登場します。
珠は女学生時代からこの作品を愛読しており、翻訳した本人を目の前にして大喜びします。
小山は年齢不詳で、突然大きな声を出すなど、少し風変わりな人物です。
しかし、文学に対する情熱は強く、珠にとって忘れられない出会いになります。
小山牛丸には特定のモデルはいない
小山牛丸については、制作統括の村山峻平さんが、特定のモデルはいないと説明しています。
つまり、秋山格之介のように、実在する一人の作家を明確にモチーフにした人物ではありません。
当時の文学者たちが持っていた個性や情熱を取り入れて生まれたキャラクターと考えられます。
小山が珠に語る文学への思いは、これから小説を書くようになる珠にとって、大切な刺激になるのかもしれません。
なぜ珠はぶくぶく堂に通う?本が好きなだけではない理由
珠がぶくぶく堂に通うのは、本を読むことが好きだからです。
しかし、珠にとって本は、単なる暇つぶしではありません。
岩国で教師として働いていたころから、珠は文学に強い関心を持っていました。
東京に出てからも、本を通じて知らない世界に触れ、新しい考え方に刺激を受けています。
ぶくぶく堂では、憧れの作家とすれ違ったり、愛読書の翻訳家と直接話したりすることができます。
地方で暮らしていたころには、なかなか経験できなかったことでしょう。
さらに、東京で珠が働くことになる西洋料理店「悠樂軒」でも、作家や編集者たちとの出会いが待っています。
本屋とレストランという二つの場所を通じて、珠の周囲には文学に関わる人々が増えていくのです。
宇野千代も文学者との出会いから刺激を受けていた
実際の宇野千代も、若いころから文学に憧れていました。
東京では芥川龍之介のほか、今東光、久米正雄、佐藤春夫らと知り合っています。
また、童話作家の小川未明にも強く心を寄せ、自ら訪ねたことが年譜に記されています。
千代はその後、1921年(大正10年)に小説『脂粉の顔』が懸賞小説で一等に入選し、作家として歩み始めます。
ぶくぶく堂での珠の出会いは、そんな宇野千代の文学への憧れと、東京で得た刺激を表しているように感じられます。
まとめ
『ブラッサム』に登場する本郷の書店「ぶくぶく堂」は、直接の実在モデルが確認されていないドラマ上の書店です。
ただし、大正時代の本郷には実際に書店や古書店が集まり、学生や文学者が本を求めて訪れていました。
ぶくぶく堂で珠が出会う秋山格之介は、芥川龍之介をモチーフにした人物と考えられます。
一方、小山牛丸には特定の実在モデルがおらず、文学への情熱を持った個性的な作家として描かれています。
宇野千代も東京で芥川龍之介らと交流し、文学への思いを深めていきました。
ぶくぶく堂は、珠が大好きな本を探す場所であると同時に、憧れの文学の世界へ近づく場所でもあります。
本屋での何気ない出会いが、これからの珠にどのような影響を与えていくのか楽しみですね。
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