珠がついに岩国を離れ、東京へ行く決心をしました。
悪い噂に苦しみ、教師の仕事も葉野酒造の仕事も失ってしまった珠。ようやく新しい人生への一歩を踏み出せそうです。
珠には幸せになってほしい。そう思う一方で、気になるのが岩国に残される家族のことです。
母・リョウは工場で働きながら、守、俊子、英男の3人を育てていかなければなりません。
珠がいなくなった後、生活は成り立つのでしょうか。姉の悪い噂が原因で、弟妹たちがこれ以上つらい思いをしないかも心配です。
実は、珠のモデルとなった作家・宇野千代も、若いころに故郷の岩国を離れ、継母と5人の弟妹を残して旅立っています。
そして、宇野千代のその後を調べてみると、少し安心できる話がありました。
今回は、珠が東京へ行った後のリョウと弟妹たちの生活を考えながら、宇野千代と実際の家族が歩んだ人生を紹介します。
『ブラッサム』珠が東京へ行った後の家族はどうなる?
10月22日放送の第19回で、珠は岩国を離れる決心をしました。
きっかけを作ったのは、母・リョウです。
教師を辞めさせられてからも悪い噂が消えず、珠は新しい仕事を探しても雇ってもらえませんでした。
リョウが本家の葉野酒造に頭を下げ、ようやく働けるようになったものの、そこでも噂が原因で仕事を失ってしまいます。
家にこもりがちになり、すっかり元気をなくしてしまった珠。
そんな娘を見ていられなくなったリョウは、岩国を離れて東京へ行くよう背中を押しました。
東京には、大学へ進学する木村保がいます。
珠にとっては、これまでの噂から離れ、新しい生活を始める機会です。
しかし、珠が東京へ行けば家族の暮らしも変わります。
それまで家事や弟妹の世話を担っていた姉がいなくなるのです。
リョウが仕事から帰るまでの間、誰が家のことをするのでしょうか。
珠の旅立ちを喜びたい気持ちと、残された家族への心配が入り混じります。
リョウの稼ぎだけで子ども3人を養える?
珠が教師をしていたころ、葉野家には珠とリョウの収入がありました。
ところが珠が教師を辞めた後、家計を支えるのはリョウの工場での稼ぎだけになっています。
守、俊子、英男の3人は、まだ母親の支えが必要な年齢です。
食費や衣服代だけでなく、学校に通うためのお金もかかります。
大正時代の工場労働は、決して楽な仕事ではありませんでした。
女性の賃金は男性より低いことが多く、子どもを抱える家庭にとって、母親一人の収入で暮らすのは厳しかったと考えられます。
珠が東京へ行ったことで、食費などの支出は一人分減ります。
しかし、それだけで家計に余裕が生まれるとは思えません。
しかも、珠は仕事を失う前から、家事や弟妹の世話でもリョウを助けていました。
家計だけでなく、毎日の暮らしを支える手も一人減ってしまうのです。
それでもリョウは、珠を引き止めませんでした。
家計の苦しさを誰よりも知っているリョウが、あえて珠を送り出したことには、大きな意味があるように思います。
珠が東京へ行っても悪い噂は消えない?
もう一つ心配なのが、岩国に残る弟妹たちへの影響です。
珠が島村先生との恋愛を「ふしだら」と噂されるようになってから、その悪評は隣町まで広がりました。
しかも、噂の影響を受けたのは珠だけではありません。
弟の守は、学校で姉のことをからかわれ、同級生とけんかになっています。
本人が何か悪いことをしたわけではないのに、家族というだけで嫌な思いをする。
守の悔しさを思うと、珠が岩国を離れた後のことも気になります。
当時は、家族の評判が本人の評価にも結びつきやすい時代でした。
珠がいなくなったからといって、町の人たちがすぐに噂を忘れるとは限りません。
ただ、珠が地元で暮らし続ける限り、周囲の好奇の目にさらされる機会も多かったでしょう。
珠が岩国を離れ、時間がたつことで、噂が次第に落ち着いていく可能性もあります。
守たちがこれ以上傷つかず、以前のように学校生活を送れるようになってほしいですね。
モデル・宇野千代も継母と5人の弟妹を残して岩国を離れた
珠のモデルとなった宇野千代にも、よく似た経験があります。
宇野千代は1897年、山口県岩国に生まれました。
幼いころに実母・トモを亡くし、父・俊次の後妻となった佐伯リュウに育てられています。
リュウと俊次の間には、4人の男の子と1人の女の子が生まれました。
千代にとっては、5人の異母弟妹です。
リュウは千代を実の子どもと分け隔てなく育て、千代も幼い弟妹たちの世話をよくしていました。
1914年、千代は岩国高等女学校を卒業し、川下尋常高等小学校の代用教員になります。
しかし、同僚の男性教師との恋愛が町中の噂となり、1916年に学校を辞めることになりました。
その後、千代は女学校時代の恩師を頼って、当時日本の統治下にあった京城(現在の韓国・ソウル)へ渡っています。
珠が東京へ向かうのとは行き先が違いますが、恋愛の噂によって教師の仕事を失い、故郷を離れた点は共通しています。
そして千代もまた、継母と幼い弟妹たちを岩国に残して旅立ったのです。
宇野千代が岩国を離れた後、継母リュウはどう暮らした?
実際のリュウも、働きながら家族を支えていた女性でした。
父・俊次は定職に就かず、競馬や博打などの道楽に熱中していたことで知られています。
リュウは製糸工場で働き、千代の学費も工面していました。
父・俊次は1913年に亡くなっているため、千代が岩国を離れたころには、リュウが5人の子どもを育てていたことになります。
ただし、千代が故郷を離れた後、リュウがどれほどの収入を得ていたのか、親戚から援助を受けていたのかといった詳しい家計の記録は確認できません。
リュウの稼ぎだけで生活していたと断定することはできませんが、決して余裕のある暮らしではなかったでしょう。
それでもリュウは、千代が故郷を離れることを妨げませんでした。
ここに、ドラマのリョウと重なる母親の姿があります。
宇野千代を見送ったのは継母リュウただ一人だった
宇野千代が岩国を離れたときの、印象的なエピソードが残されています。
千代は人目につかないよう、まだ夜が明けないうちに港から出発しました。
そのとき、見送りに来ていたのは継母のリュウただ一人だったといいます。
教師を辞め、町中で恋愛の噂をされた娘を母が一人で見送る。
リュウがそのとき何を考えていたのか。どのような心境だったのかは分かりません。
しかし、千代が旅立つ最後の瞬間までそばにいたことは確かです。
千代にとって、リュウは血のつながりを超えた大切な母親でした。
ドラマでも、リョウは苦しむ珠に故郷を離れるよう勧めています。
一緒に暮らしたい気持ちがあっても、娘がこれ以上傷つく姿は見たくない。
リョウが珠を送り出した決断には、実際のリュウの姿が重なります。
宇野千代は故郷を離れた後も家族を忘れなかった
ここからは、少し安心できる話です。
宇野千代は岩国を離れた後も、継母や弟妹たちとの縁を失っていません。
京城から帰国した千代は、京都や東京などで暮らし、さまざまな仕事を経験しました。
やがて小説を書き始め、1921年には『脂粉の顔』が懸賞小説で一等に選ばれます。
作家としての道が開けた千代は、大きな原稿料を手にすると、故郷の岩国へ帰りました。
帰郷を知った5人の弟妹たちは、岩国駅まで千代を迎えに来たといいます。
千代は人力車を連ねて実家へ戻り、久しぶりに継母リュウと再会しました。
そして、手にしたお金の一部をリュウに渡したのです。
リュウは驚き、涙を流して喜んだことが、千代の自伝『生きて行く私』に記されています。
若いころは母に支えてもらっていた千代が、今度は自分の稼いだお金で母を助けるようになったのです。
このエピソードを知ると、珠が東京へ行くことも、家族との別れだけではないように感じられます。
今はリョウに頼ることが多くても、いつか珠が自分の力で家族を助けられる日が来るかもしれません。
宇野千代の弟妹たちはその後どうなった?
千代が岩国を離れた後も、5人の弟妹たちは成長していきました。
その後の一人ひとりの詳しい生活や職業については、今回確認した資料だけでは十分に分かりません。
しかし、千代が作家として成功した後、5人そろって岩国駅まで迎えに来たという記録が残っています。
少なくとも、千代が故郷を離れたことで家族の関係が途絶えてしまったわけではありません。
千代は後年も弟妹たちの面倒をよく見ていたことで知られています。
小説家の広津和郎も、千代が弟妹たちを家の長として世話していることに感心していたといいます。
幼いころから弟妹たちを大切にしてきた千代の気持ちは、大人になっても変わらなかったのでしょう。
離れて暮らすようになっても、家族を思う気持ちは続いていたのです。
ドラマのリョウと弟妹たちにも希望はある?
実際の宇野千代と継母リュウの人生を知ると、ドラマの葉野家にも希望を感じます。
もちろん、宇野千代の実話がそのまま『ブラッサム』の展開になるわけではありません。
ドラマの珠は東京へ向かいますが、実在の千代が最初に向かったのは京城でした。
家族構成も異なり、ドラマでは守、俊子、英男の3人が岩国に残ります。
それでも、リョウと珠の関係には、千代とリュウの母娘の絆が感じられます。
リョウは、珠が教師として働いていたころも、仕事を失って苦しんでいたころも、ずっと娘を支えてきました。
今回、東京行きを勧めたのも、珠に新しい人生を歩んでほしかったからでしょう。
リョウにとって、珠が元気を取り戻すことは何より大切だったのだと思います。
守が姉の旅立ちを嫌がったことからも、珠が家族にとって大きな存在だったことが伝わってきます。
珠がいなくなった後、家族の暮らしがすぐに楽になるとは思えません。
けれど、実在の宇野千代のように、離れた場所で力をつけた珠が、いつかリョウや弟妹たちを支える日が来ることを期待したいですね。
まとめ
『ブラッサム』で珠が東京へ行くことになり、岩国に残るリョウと3人の弟妹たちの暮らしが心配になりました。
リョウは工場で働きながら家計を支えており、珠がいなくなれば、家事や弟妹の世話の負担も増えるでしょう。
また、珠の悪い噂によって守が学校でからかわれていたことも気がかりです。
一方、モデルとなった宇野千代も、継母リュウと5人の弟妹を残して故郷を離れています。
千代が旅立った後の家計の詳細は分かりませんが、後年、作家として収入を得た千代は岩国へ帰り、リュウにお金を渡しました。
弟妹たちとの関係も続き、成長してからも家族を大切にしていたことが分かっています。
珠が東京へ行くことは、リョウたちを見捨てることではありません。
今は母に送り出してもらう珠が、いつか家族を支えられるようになる。
そんな未来を思い描きながら、岩国に残るリョウ、守、俊子、英男の幸せも見守っていきたいと思います。
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