Netflixドラマ『SとX』の主人公・霜鳥壱人には、人と深く関わることにためらいを感じてしまう過去があります。
その原因をたどっていくと、幼い頃の父親との出来事に行き着きます。
普段の霜鳥は穏やかで、相談者の悩みを否定せず、その人自身の気持ちを大切にする人物です。
ところが、自分自身の恋愛となると状況が変わります。
初恋の相手だった市之瀬佑美と再会し、互いに惹かれ合っても、どうしても一歩を踏み出すことができません。
なぜ霜鳥はここまで人との深いつながりを恐れるようになったのでしょうか。
この記事では、霜鳥の父親が過去に何をしたのか、両親の間に何があったのか、そして父親との記憶が現在の霜鳥にどのような影響を残したのかを解説します。
※ここからは物語後半と原作の重要な内容に触れます。
『SとX』霜鳥の父親は何をした?
霜鳥の父親は、妻と別の男性との関係を知り、冷静さを失ってしまいます。
そして小学5年生だった霜鳥を連れ、母親とその男性が一緒にいる場所へ向かいました。
ここで重要なのは、まだ子どもだった霜鳥まで両親の問題に巻き込まれてしまったことです。
霜鳥は、自分ではどうすることもできない大人たちの問題を目の前で見せられることになりました。
さらに父親は怒りを抑えることができず、母親と一緒にいた男性に激しい危害を加えます。
詳しい描写はここでは控えますが、幼い霜鳥にとって強い恐怖を感じる出来事だったことは間違いありません。
そして、この一連の出来事が、その後の霜鳥の人生に長く影響を与えることになります。
父親はなぜ霜鳥を連れて行ったのか
父親の行動の中でも特に重いのが、なぜ幼い霜鳥まで連れて行ったのかという点です。
夫婦間にどのような問題があったとしても、それは本来、大人同士で向き合うべきことです。
しかし父親は、自分の怒りや苦しみの中に息子まで巻き込んでしまいました。
その結果、霜鳥は自分の意思とは関係なく、家族が壊れていく瞬間を目の当たりにすることになります。
さらに父親は霜鳥に対し、人と深くつながるほど、その関係が壊れたときの傷も大きくなるという意味の言葉を残します。
この父親の考え方は、その後の霜鳥の人間関係に大きな影を落としました。
子どもにとって、親の言葉は非常に大きなものです。
ましてや強い恐怖を感じた出来事と一緒に聞いた言葉であれば、その記憶が長く残ったとしても不思議ではありません。
霜鳥にとってこの日から、「誰かを大切に思うこと」と「その関係を失う怖さ」が強く結びついてしまったのでしょう。
父親の言葉が霜鳥のトラウマにつながった
霜鳥の過去を理解するうえで重要なのは、父親の行動だけではありません。
父親から植え付けられた人間関係への考え方も大きな意味を持っています。
誰かと深くつながれば、失ったときに傷つく。
大切な人ができれば、裏切られるかもしれない。
幸せな関係も、いつか壊れるかもしれない。
霜鳥は幼い頃の経験から、こうした恐れを心の奥に抱えるようになったと考えられます。
頭では「すべての人間関係が両親と同じになるわけではない」と理解できていたでしょう。
実際、霜鳥は専門家として多くの相談者に向き合っています。
ところが自分自身が誰かを好きになり、深い関係を築こうとすると、過去の記憶がよみがえってしまいます。
知識では理解できても、心が追いつかない。
この矛盾こそが、霜鳥という人物の苦しさでもあります。
霜鳥が人と深く関わることを避けていた理由
父親との過去は、霜鳥の恋愛だけに影響したわけではありません。
霜鳥は人との距離そのものについて、とても慎重な人物になっています。
相談者には優しく寄り添うことができる。
職場の人たちとも良好な関係を築ける。
しかし、自分自身の心の奥深くまで誰かを入れることにはためらいがあります。
これは一見すると矛盾しているようですが、霜鳥の過去を知れば理解できます。
専門家と相談者という関係には、一定の距離があります。
一方、恋愛では自分自身の弱さも相手に見せなければなりません。
霜鳥にとって本当に怖かったのは、誰かを好きになることそのものではなく、大切な人との関係が両親のように壊れてしまうことだったのでしょう。
だからこそ、佑美は霜鳥にとって特別な存在になります。
父親と霜鳥は正反対の人物として描かれている?
霜鳥と父親を比べると、非常に興味深い違いがあります。
父親は、自分の感情を抑えることができず、その怒りによって周囲を傷つけてしまいました。
一方、成長した霜鳥は相手の話を聞くことを何よりも大切にしています。
自分の価値観を押しつけない。
相手を否定しない。
何が正しいのかを一方的に決めない。
その人自身がどう感じているのかを聞こうとする。
これは父親の姿とは対照的です。
霜鳥は父親と同じようにならないために、無意識のうちに「人を傷つけない生き方」を選んできたのかもしれません。
もちろん、霜鳥が現在の職業を選んだ理由が父親だけにあるとは断定できません。
それでも、自分自身が幼い頃に「気持ちを置き去りにされた経験」を持っているからこそ、現在の霜鳥は他人の気持ちを何より大切にする人物になった、と考えることはできます。
霜鳥は「自分も父親のようになる」と恐れていた?
霜鳥の恋愛へのためらいには、もう一つ重要な部分があります。
それは、自分の中にも父親と同じものがあるのではないかという恐れです。
子どもの頃に両親の関係が壊れる姿を目の当たりにすると、「自分もいつか同じようになるのではないか」と不安を感じることがあります。
霜鳥にとって恋愛は、単純に誰かを好きになることだけではありませんでした。
誰かを好きになれば、その人を傷つけてしまうかもしれない。
自分も父親と同じ失敗をするかもしれない。
それなら最初から深く関わらない方がいい。
そう考えることで、自分自身と相手の両方を守ろうとしていたとも考えられます。
だから佑美との関係が深くなるほど、霜鳥は苦しくなっていきます。
好きだから近づきたい。
しかし、大切だからこそ傷つけたくない。
霜鳥の中には、この二つの気持ちが同時に存在していたのでしょう。
佑美との再会が父親の呪縛から抜け出すきっかけに
そんな霜鳥を変えていくのが、市之瀬佑美との再会です。
佑美は、霜鳥の問題を無理に解決しようとはしません。
霜鳥が抱えているものを知ろうとし、彼自身の気持ちを尊重します。
これは、幼い頃の霜鳥が経験した親子関係とは大きく異なります。
父親は自分の怒りの中に霜鳥を巻き込みました。
一方の佑美は、自分の価値観を霜鳥に押しつけるのではなく、彼が自分から話せるまで寄り添おうとします。
ここには『SとX』という作品が大切にしている「対話」があります。
過去そのものを消すことはできません。
父親がしたことも、霜鳥が見たものも、なかったことにはできません。
それでも、過去とは違う人間関係を新しく築くことはできます。
佑美との関係を通して霜鳥が少しずつ学んでいくのは、まさにそのことなのでしょう。
父親との過去は霜鳥の優しさにもつながっている
父親との出来事は、霜鳥に深い傷を残しました。
しかし『SとX』では、その経験だけで霜鳥という人物を説明していません。
霜鳥は、自分が傷ついたからこそ、人の痛みに敏感な人物でもあります。
「こんなことで悩むのはおかしい」と決めつけない。
人には話しづらい悩みにも真剣に耳を傾ける。
そして相談者自身が納得できる答えを、一緒に探そうとします。
霜鳥自身もまた、簡単には解決できない問題を抱えているからです。
完璧な専門家が悩んでいる人を救うのではなく、自分も悩みを抱えた一人の人間だからこそ、他人の苦しみに寄り添える。
ここに霜鳥壱人という主人公の大きな魅力があります。
父親との過去は霜鳥を苦しめました。
しかしその経験を抱えながら、父親とは違う生き方を選び続けているところに、霜鳥の強さがあるのではないでしょうか。
まとめ
『SとX』の霜鳥壱人が恋愛や人との深いつながりに踏み出せなかった背景には、小学5年生の頃に経験した両親の出来事があります。
父親は母親と別の男性との関係を知り、幼い霜鳥をその問題に巻き込みました。
さらに感情を抑えられなくなった父親が相手の男性に危害を加える姿まで、霜鳥は目の当たりにすることになります。
そして父親から伝えられた「深くつながった関係ほど、壊れたときの傷も大きい」という考え方は、長い間、霜鳥の心に残り続けました。
しかし大人になった霜鳥は、父親とは違う生き方をしています。
相手を支配するのではなく、話を聞く。
自分の価値観を押しつけるのではなく、その人自身の気持ちを尊重する。
そして佑美との再会によって、自分自身の過去とも少しずつ向き合い始めます。
霜鳥の父親との過去は確かに重いものです。
それでも『SとX』が描いているのは、過去によって人生のすべてが決まるという物語ではありません。
過去を消すことはできなくても、自分がこれからどんな人間関係を築くのかは選ぶことができる。
父親とは正反対の方法で人と向き合う霜鳥の姿には、そんな作品のメッセージも込められているのではないでしょうか。

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