NHK朝ドラ『ブラッサム』で、少し気になる人物がいます。
珠の父・清治の弟で、葉野酒造を継いでいる葉野清重です。
清重は歩くときに足を引きずっており、足が不自由であることが分かります。
なぜ清重は足が悪いのでしょうか。
病気なのか、生まれつきなのか、それとも過去に何かあったのか。
現時点のドラマでは、その原因までは明かされていません。
ところが宇野千代の家族について調べてみると、もう一つ気になることが見えてきます。
清重のモデルと考えられる宇野千代の伯父について、足が不自由だったという確認できる史実は見当たりません。
だとすれば、清重の「悪い足」は単なる人物設定ではなく、ドラマが兄・清治と弟・清重の関係を描くために加えた設定なのかもしれません。
そして第3回までを見ると、この「足」が清治の人生を大きく変えた可能性も見えてきます。
清重はなぜ足が悪い?原因はまだ明かされていない
清重は清治に呼び出されて料亭へやって来た際、足を引きずるように歩いていました。
しかし、なぜ足が不自由なのかについては説明されていません。
生まれつきなのか、病気やけがによるものなのかも不明です。
ここで無理に理由を決めつけることはできません。
ただ、物語を見るうえで重要なのは、足が悪くなった「原因」そのものより、清重の足が兄弟の人生に何をもたらしたのかではないでしょうか。
第3回で明らかになった清治と清重の過去を振り返ると、この足が家督をめぐる二人の関係と深く結びついていることが分かります。
本来、葉野酒造を継ぐはずだったのは兄・清治
葉野清治は、岩国でも有数の蔵元である葉野酒造の長男です。
当時の家制度を考えれば、本来は長男の清治が家督を継ぐのが自然でした。
ところが実際に葉野酒造を継いでいるのは、弟の清重です。
清治は本家を離れ、自分では働かず、家督を譲った代わりとして本家から毎月お金を受け取って暮らしています。
なぜ兄ではなく弟が家を継いだのか。
第3回では、その経緯をうかがわせる清治の言葉が出てきました。
清治は清重に対し、かつて父親に頼んだのは清重だったこと、自分が身を引いたから今の清重があるのだという思いをぶつけています。
つまり清重は、自分が家督を継ぐことを望み、清治はそのために長男という立場から身を引いたと考えられます。
そして、清重の足が不自由であることも、この決断と無関係ではなさそうです。
なぜ足の悪い弟に家督を譲ったのか
一見すると、ここには少し不思議なところがあります。
身体が丈夫な兄ではなく、足が不自由な弟が大きな酒蔵を継いでいるからです。
しかし、清重の立場から考えてみると見え方が変わります。
清治が家督を継いだ場合、清重はどうなるのでしょうか。
今のように働くことへの支援や選択肢が多くなかった時代です。
足に不自由がある清重にとって、家を継ぐことは単に財産を手にするという話ではなく、自分が生きていく場所と役割を得ることでもあったのではないでしょうか。
だから清重は父親に頼み、清治ではなく自分に家督を継がせてもらった。
そして清治も、それを受け入れた。
そう考えると、横暴で自分勝手に見える清治に、少し違う一面が見えてきます。
清治は本当は弟を助けたかった?
現在の清治と清重は、決して仲の良い兄弟には見えません。
清治は家督を譲ったことを盾にするように清重を責め、「今のお前があるのは自分が身を引いたからだ」という態度を取っています。
しかし、最初に家督を譲ったときから、清治はこんな気持ちだったのでしょうか。
ここにはまだ描かれていない部分があります。
清重は足が不自由です。
そんな弟が自分の将来に不安を感じ、家督を継ぎたいと父親に願った。
もし清治が本当に弟のことなどどうでもよかったのなら、長男である自分がそのまま家督を継ぐこともできたはずです。
それでも清治は身を引いています。
もちろん「家督を譲る代わりに一生お金をもらう」という条件があったため、純粋な自己犠牲だったとは言えません。
それでも、足の悪い弟が生きていけるように家を譲るという選択をした可能性は十分に考えられます。
清治は「弟のために家を譲った優しい兄」と単純に描ける人物ではありません。
だからこそ、この兄弟は面白いのです。
モデルとなった宇野家では兄が酒造を継いでいる
ここで、『ブラッサム』のモデルとなった宇野千代の家族と比べてみましょう。
宇野千代の父・宇野俊次も、造り酒屋の家に生まれています。
ただし、俊次はドラマの清治とは違って次男でした。
家督を継いだのは兄の政介です。
俊次は定職に就かず、本家を継いだ兄から定期的にお金を受け取りながら暮らしていました。
この「酒造を継いだ兄から、働かない弟がお金を受け取る」という史実を、『ブラッサム』では大きく組み替えています。
清治を長男にし、清重を弟にしたうえで、長男が弟に家督を譲ったことにしたのです。
さらに清重には「足が不自由」という設定まで加えられています。
清重のモデルと考えられる政介について、足が不自由だったという確認できる史実は、現時点では見つかっていません。
となると、清重の足は史実を再現するためではなく、ドラマ独自の兄弟関係を作るために置かれた設定と見ることができます。
清重の「悪い足」が清治の人生を変えた?
ここから考えると、清重の足にはもう一つ重要な意味が見えてきます。
足が不自由な清重がいたから、清治は家督を譲った。
家督を譲ったから、清治は葉野酒造を継がなかった。
葉野酒造を継がなかったから、清治は「一生自由に暮らす」という生き方を選んだ。
つまり、清重の足は清重だけの問題ではなく、清治の人生まで変えた設定なのです。
そう考えると、第3回で清治が清重に向けた激しい怒りも少し違って見えてきます。
「自分がお前のために身を引いた」という思いが清治の中にあるのなら、その後になって清重から「そろそろ働いてほしい」と言われたことは、清治にとって約束をひっくり返されたように感じたのかもしれません。
だから清治はあれほど激しく怒った。
単に「働きたくないから怒った」だけではないと考えると、あの兄弟げんかには別の感情が見えてきます。
清重は兄に恩を感じているから強く出られない?
もう一つ注目したいのが、清重の態度です。
清治は弟に対してかなり横暴です。
それでも清重は兄を完全に突き放してはいません。
本家から毎月お金を渡し続け、働いてほしいと伝え、清治の生き方を心配しています。
ここには「困った兄だから仕方なく面倒を見ている」だけではない感情があるように見えます。
もし清重が、自分が今の立場にいられるのは兄が家督を譲ってくれたからだと思っているなら、兄に強く出られないのも分かります。
一方の清治も、その恩を忘れるなと言わんばかりに過去を持ち出す。
兄は「自分が譲った」と思っている。
弟は「兄に譲ってもらった」と思っている。
同じ出来事を抱えながら、二人ともそこから自由になれていないのではないでしょうか。
「兄貴の窮屈は変わらん」という清重の言葉
この兄弟を考えるうえで、特に気になるのが清重の言葉です。
清治は清重に「一生自由に暮らす」と宣言します。
それに対して清重は、そんなことをしても兄の「窮屈」は変わらないという意味の言葉を返しました。
なぜ清重は、働かず自由に暮らしている兄を「窮屈」だと知っているのでしょうか。
ここに、まだ明かされていない兄弟の過去があるように感じます。
清重は清治が家督を譲った本当の理由を知っている。
そして、家督から逃れれば清治が自由になれるわけではないことも知っている。
だからこそ言えた言葉なのかもしれません。
家督を譲った日の二人に何があったのか。
清治は本当に喜んで身を引いたのか。
それとも弟の将来を考えて、自分の望みを諦めたのか。
まだ答えは出ていません。
ただ、清重の足をきっかけにして二人の人生が分かれたのだとすれば、「窮屈」という一言にはかなり重い意味がありそうです。
清重の足の理由より「なぜこの設定を加えたか」が面白い
清重の足がなぜ悪いのか。
その原因自体は、今後ドラマの中で明かされるかもしれません。
ただ現段階では、「何の病気なのか」「いつから悪いのか」を推測する材料はありません。
むしろ注目したいのは、史実では確認できない「足の不自由な弟」という設定を、なぜドラマが加えたのかという点です。
清重に足の不自由さを与えたことで、清治が家督を譲る理由が生まれました。
そして家督を譲ったことで、清治には「自分は弟のために身を引いた」という思いが残った。
その過去が、本家からお金を受け取って働かない現在の清治につながっています。
清重の足は一見すると小さな設定ですが、実は清治と清重という兄弟の現在を作った出発点なのかもしれません。
まとめ
『ブラッサム』の清重がなぜ足が悪いのか、その原因は現時点では明らかになっていません。
また、モデルと考えられる宇野千代の伯父・政介についても、足が不自由だったという確認できる史実は見つかっていません。
史実では次男だった宇野俊次を、ドラマでは長男の清治に変更し、さらに「足の悪い弟に家督を譲った」という新しい物語が作られています。
だからこそ気になるのは、清重の足そのものより、清治がどんな思いで弟に家督を譲ったのかです。
横暴で、働かず、好き勝手に生きているように見える清治。
しかしその始まりに「足の不自由な弟のために自分が身を引いた」という選択があったのなら、清治の見え方も少し変わってきます。
そして清重もまた、兄から家督を譲られたことに縛られているのかもしれません。
「一生自由に暮らす」と言う兄と、「兄貴の窮屈は変わらない」と返す弟。
清重の足には、この兄弟にしか分からない過去がまだ隠されていそうです。
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