NHK連続テレビ小説『ブラッサム』で、教師をクビになった珠が、今度は新しい仕事も見つからないという苦境に立たされています。
原因は、島村先生との恋愛をめぐって広まった「ふしだらな女」という噂でした。
珠が島村先生の家に何度も通う姿を近所の人たちが目撃し、逢引きしているという話が広まったのです。
その噂は隣町にまで伝わり、珠は仕事を探しても雇ってもらえません。
一度の恋愛騒動で教師を辞めさせられ、その後の生活まで苦しめられる。現代の感覚では、あまりにも厳しい扱いに思えます。
しかし、珠のモデルとなった作家・宇野千代も、教師時代の恋愛が町中の噂となり、学校を辞めることになりました。
珠への厳しい仕打ちは、ドラマだけの出来事ではなかったのです。
今回は、珠が「ふしだら」と噂された理由や仕事が見つからない背景を、大正時代の岩国の暮らしと宇野千代の実話から考察します。
『ブラッサム』珠はなぜ「ふしだら」と噂された?
珠が「ふしだら」と噂されるようになったのは、同じ学校に勤める島村辰彦の家に何度も通っていたためです。
島村先生が体調を崩して欠勤したとき、珠は先生のことをひどく心配していました。
その様子を見た母・リョウがお見舞いを勧め、珠は島村先生の家を訪ねます。
最初は住所も知らず、人に道を尋ねながら先生の家を探していました。
しかし、その後も珠はたびたび島村先生の家に足を運ぶようになります。
そんな珠の姿を見ていたのが、近所の人たちでした。
「若い女の先生が来て逢引きしちょる」
二人の関係は近所で噂になり、やがて学校側にも知られてしまいます。
珠は謹慎処分を受け、最終的には教師を辞めさせられました。
問題になったのは、珠が教師として何か失敗したことではありません。
男性教師の家に通っていたことが、周囲から好ましくない行動と受け止められたのです。
珠の噂はなぜ隣町まで広がった?
教師を辞めれば騒動も収まるかと思いきや、珠に対する噂はなかなか消えませんでした。
それどころか、隣町にまで話が伝わっていたのです。
ここで気になるのが、大正時代の岩国という土地柄です。
当時の岩国は人の評判が伝わりやすい地域社会だった?
大正時代の岩国には、現在のようなインターネットもSNSもありません。
それでも、人の噂は驚くほど遠くまで伝わることがありました。
近所付き合いや親戚関係、商売上のつながりなどを通じて、人の評判が広まっていったのでしょう。
特に珠は、地元の小学校で教える若い女性教師でした。
教師は地域の人たちにも知られる存在です。
その女性が男性教師の家に通っているとなれば、近所で話題になりやすかったと考えられます。
ただし、岩国だけが特別に噂好きで閉鎖的な土地だったというわけではありません。
人の暮らしが地域のつながりと深く結びついていた時代には、ほかの土地でも同じようなことが起こり得たでしょう。
教師という立場が噂を大きくした
珠が教師だったことも、噂が広まった理由の一つと考えられます。
教師は子どもたちに勉強を教えるだけでなく、模範となる振る舞いを期待される職業でした。
特に大正時代の女性教師には、慎ましさや品行の良さが求められていました。
そのため、男性との恋愛が噂になることは、教師としての評判にも関わる問題だったのです。
珠が島村先生を好きになったことよりも、周囲からどう見られたかが重視されてしまったのでしょう。
そして、一度ついた「ふしだら」という評判は、教師を辞めた後も珠につきまとい続けました。
珠はなぜ仕事が見つからない?
教師を辞めさせられた珠は、新しい仕事を探し始めます。
しかし、どこへ行ってもなかなか雇ってもらえません。
原因は、島村先生との逢引きの噂でした。
「ふしだらな女」という評判が、珠の再就職を妨げていたのです。
当時は、採用する側が応募者の人柄や家の評判を重視することもありました。
特に地元で働く場合、本人のことを知っている人や、知人を通じて話を聞いた人がいる可能性もあります。
珠の場合、教師を辞めた理由が恋愛騒動として広まっていました。
雇う側が世間体を気にして、採用をためらったとしても不思議ではありません。
しかし、珠には女学校を卒業し、実際に教師として働いた経験があります。
勉強が苦手な生徒にも熱心に向き合い、教師の仕事にやりがいを感じていました。
それなのに、仕事の能力とは関係のない噂によって働く機会を失ってしまうのです。
珠が直面しているのは、単なる失業ではありません。
一度傷ついた評判が、新しい人生を始めようとする女性の足まで引っ張ってしまうという厳しい現実です。
大正時代の女性にとって「ふしだら」という評判はどれほど重かった?
現代でも、根拠のない噂によって人が傷つけられることはあります。
しかし、大正時代の女性にとって、男女交際に関する悪い評判は、結婚や就職にも関わる問題でした。
当時は、女性に対して貞淑さや慎ましさを求める価値観が強く残っていました。
女性が男性と親しくしているだけでも、周囲から好奇の目を向けられることがあったのです。
一方、男性の交際や遊興については、女性ほど厳しく見られない場合もありました。
『ブラッサム』でも、珠の最初の夫・亨一は花街の女性と親しくしていました。
珠との結婚生活はわずか3日で終わり、亨一はその後、花街の女性と駆け落ちしています。
そんな亨一の行動と、島村先生に恋をした珠への厳しい扱いを比べると、当時の男女に向けられた社会の目の違いが感じられます。
珠は自分の気持ちに正直に行動したことで、教師の仕事だけでなく、その後の働き口まで失ってしまいました。
恋愛の噂が、女性の生活そのものを左右することもあった時代なのです。
モデル・宇野千代も恋愛が町中の噂になっていた
珠の苦境を考えるうえで欠かせないのが、モデルとなった宇野千代の実話です。
宇野千代は1914年(大正3年)、岩国高等女学校を卒業し、川下尋常小学校の代用教員として働き始めました。
当時17歳だった宇野千代は、同じ学校に赴任してきた男性教師に恋をします。
相手は、玉田精磨(たまだ・せいま)という実在の教師でした。
宇野千代は玉田先生への思いを積極的に伝え、生徒に恋文を運ばせることもあったと伝えられています。
やがて二人の恋愛は町中の噂になり、宇野千代は教師を辞めることになりました。
この経緯は、岩国市観光振興課が公開している宇野千代の紹介資料にも記されています。
つまり、若い女性教師の恋愛が地元で噂になり、仕事を失うという出来事は、実際の宇野千代にも起きていたのです。
宇野千代は学校を辞めるよう求められた
宇野千代は後年、自伝『生きて行く私』の中で、恋愛騒動によって学校を辞めることになった経験を振り返っています。
学校側から退職を求められた宇野千代ですが、川下小学校の沿革誌には、1916年(大正5年)3月31日付で「依願退職」と記録されています。
書類上は本人の願い出による退職でも、宇野千代の回想からは、学校側の判断によって教壇を去ることになった事情がうかがえます。
また、歴史研究家・刑部芳則氏の調査によると、玉田精磨も同じ日に別の小学校へ転任していました。
二人の恋愛は、宇野千代だけでなく、玉田先生の勤務先にも変化をもたらしたことになります。
宇野千代も噂で再就職できなかった?
ここは、ドラマと史実を分けて考えたいところです。
『ブラッサム』の珠は、教師を辞めた後も「ふしだら」という噂が消えず、隣町でも仕事が見つからない状況に追い込まれています。
一方、宇野千代について確認できるのは、教師時代の恋愛が町中の噂になり、学校を辞めたという経緯です。
宇野千代も珠と同じように、岩国や隣町で何度も就職を断られたという事実までは、今回確認した資料では裏付けられませんでした。
実際の宇野千代は、失恋と退職を経験した後、故郷の岩国を離れています。
そして知人を頼り、当時日本の統治下にあった京城(現在の韓国・ソウル)へ渡りました。
その後は京都や大阪などを転々とし、さまざまな仕事を経験しています。
珠が地元で仕事を探し続ける展開は、宇野千代の人生をもとにしながら、ドラマとして再構成された部分と考えられます。
『ブラッサム』珠と宇野千代の実話を比較
| 比較項目 | ドラマの珠 | 実在の宇野千代 |
|---|---|---|
| 恋の相手 | 島村辰彦 | 玉田精磨 |
| 勤務先 | 岩国第三尋常小学校 | 川下尋常小学校 |
| 噂の発端 | 男性教師の家に通う姿を近所の人が目撃 | 同僚教師との恋愛が町中の噂になる |
| 教師の仕事 | 謹慎後にクビを告げられる | 学校側から退職を求められる |
| 退職後 | 噂が消えず、地元で仕事が見つからない | 岩国を離れ、京城へ渡る |
| 再就職への噂の影響 | 隣町まで噂が広まり、採用を断られる | 同様の就職難は確認できない |
二人に共通するのは、教師として働いていた若い女性が恋愛の噂によって職を失ったことです。
ドラマでは、当時の女性にとって評判がどれほど大きな意味を持っていたのかを、珠の再就職を通して描いているように感じられます。
リョウが葉野酒造に頭を下げた理由
珠が仕事を見つけられずにいる間、葉野家の生活を支えていたのは、工場で働くリョウの収入でした。
そんな珠を見かねたリョウは、本家の葉野酒造を訪ねます。
そして清重に、珠を働かせてもらえないかと頭を下げたのです。
自分の力で仕事を見つけたい珠にとって、本家を頼ることには複雑な思いもあったかもしれません。
それでもリョウは、娘が働ける場所を何とか確保しようとしました。
教師時代の噂が消えず、ほかの勤め先が見つからない珠にとって、本家とのつながりが助けになったのです。
ただし、珠はこの後、葉野酒造でも働き続けることが難しくなっていきます。
故郷で仕事を探しても、思うように道が開けない珠。
そんな彼女の人生が動き始めるきっかけとなるのが、木村保との再会です。
珠が岩国を離れることにはどんな意味がある?
珠にとって岩国は、生まれ育った大切な故郷です。
しかし、教師を辞めた後は、恋愛の噂がつきまとい、新しい仕事を見つけることさえ難しくなりました。
地元では、珠がどれほど努力しても、過去の評判が先に立ってしまいます。
一方、故郷を離れれば、珠の過去を知らない人たちと出会い、新しい仕事や生き方を探すこともできるでしょう。
実際の宇野千代も、教師を辞めた後に岩国を離れ、さまざまな土地で働きながら人生を切り開いていきました。
珠が今後、保との再会をきっかけにどのような道を選ぶのか。
故郷での苦しい経験が、新しい世界へ踏み出す理由の一つになっていくのかもしれません。
まとめ
『ブラッサム』で珠が「ふしだら」と噂されたのは、島村先生の家に何度も通う姿を近所の人たちに目撃されたことがきっかけでした。
噂は隣町まで広まり、珠は教師を辞めた後も新しい仕事を見つけられなくなってしまいます。
大正時代は、女性の男女交際に対する評判が、仕事や結婚にも影響することがありました。
モデルとなった宇野千代も、同僚教師との恋愛が町中の噂になり、教師を辞めています。
ただし、珠のように地元で再就職を断られ続けたという史実までは確認できません。
珠が置かれた状況には、当時の女性が世間の評判に縛られ、自分の意思だけでは生き方を選べなかった厳しさが表れているように思います。
仕事を失い、故郷でも居場所を見つけられなくなった珠が、これからどのように新しい人生を切り開いていくのか注目したいですね。
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